2020年1月、コロナがちらほらと出始めた中国のレストランでのこと、コロナ感染した人々はエアコンの風の流れに沿っていたことがわかった。そこからリスク要因として手洗い(接触感染)、距離を取る(飛沫感染?)が挙げられたが、換気(空気感染)が重要ではないかと一部の専門家が指摘しはじめた。
素人が考えてもわかることを、WHO、CDCといった専門機関がコロナが空気感染のおそれありと公表するのは数年後の話。WHOでは「空気を介して感染する病原体の用語の定義」について、報告書を公表し、「Airborne transmission/inhalation(空気感染・吸入)」を定義したのは2024年4月のことである(遅い!)。
コロナ初期から厚生労働省の「三密」(わかりやすさがあって合理的とは思うが)だけでは感染が防げないと考えて独自に情報を収集し、数え切れない内外の信頼できると考えられる論文等を読破して自分なりに定義したのが換気の重要性であった。
それからはCO2センサーを片手に、求められれば企業や飲食店などをまわって、構造面や時間帯、集客人数、内部運営でできうることなどを聞き取って換気のしくみを提案したもの。
一般的な事務所や工場ならロスナイなどの全熱交換器の導入(どこに設置すればよいかを外部の環境やダクト長も勘案しつつ設置場所を指定)を行った。コロナが収まって以後も、手間いらずでエネルギーロスのない換気が365日24時間低コストでできるので職場環境が劇的に改善する。具体的には、ビル管理法で定められているCO2濃度1000ppmを越えないようにすることで、仕事中に眠気が来にくくなり、作業性や生産性が向上するというもの。
飲食店なら、業種にもよるが、ウイルスを濾過できるとされる空気清浄機のHEPAフィルターが油煙により数か月で交換しなければならない。そこで機械排気(通常の換気扇)と自然導入(もしくは機械吸気)を併用しつつ、空気の停滞する客席億などに空気清浄機を設置、さらにレンジダクトから遠い客席には全熱交換器(熱交換型機械吸排気)を設置することを提案。
※全熱交換器は迷うことなくロスナイ(三菱)をおすすめ
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ldg/ja/air/products/ventilationfan/about/detail_03.htmlこれらを風量計算をしながら室内の空気圧を調える。例えば、排気ばかりで吸気がない状態だと室内が陰圧となり、ドアを開けてもバタンと閉る。なにより換気扇が音を立ててまわっても少しも排気できていない状態である。コロナ対策ができたので見に来てほしいというスナックを見て、もともと窓のない構造に壁に3連の換気扇を付けていたが、排気と同量の吸気がないと換気はできないことを説明したとき、コロナ感染しないよう集客したかった女性経営者が絶句されたことがある。
導入はさぞや高額になるのかと思いきや、実は大してかからない。むしろ職場環境や客席環境の向上は、病気による離職や顧客の快適性(なんだが空気が良いなという体感できるリピート要因)につながる利点がある。もちろん換気はコロナだけではなく、インフルエンザや風邪にも有効である。
その際のCO2濃度をどの程度に設定するかについて、このブログでも何度も書いてきた。どの専門機関も換気をせよとは啓発していても、どの程度(数値)にすればよいかは書かれていない。日本には一定規模の建物にはビル管理法での1000ppmという基準があるが、この基準を持ってコロナ感染を防ぐということは合理性がない。さまざまな場所で「実際に計測してできうること」と「防ぎうる確率が合理的なこと」を勘案したところ、700〜800ppmが妥当と設定(もちろん低ければ低いほど良い。いまこの原稿を書いているぼくの事務所は520ppmである)。700ppmを実現するためには、1人あたり1時間に50立米の換気を行うことが目安となることもお伝えしておこう。
徳島では待望のとある外食チェーンが数か月前に上陸。連日満員で待ち時間なく入れる曜日や時間帯はないほどの盛況である。このチェーンの実力はその客層が知らないところで高い水準にあるので、徳島になかったときは、わざわざ県外の同チェーンまで出かけていた(もちろん周辺で他の目的とあわせて)。だから真っ先に行きたいのだが、ある日下見に出かけて気付いたのは、CO2濃度が高そうに見えたこと(実際に計測していないがこれまで数百箇所を見て計測した経験から)。狭い空間に密集した客席で、しかもある程度滞在型であり、おしゃべりをしているお客様ばかりであったため。
同じ徳島で別のチェーン店で食事したときのこと。これまでも体感して数値は低いだろうと見ていたので計器は持ち込んでいなかった。看板メニュー(定番)の牛めしを注文しながら料理が来る前から食べ終わるまで1分ごとに計測した数値はご覧のとおり。


この数値は予想外の低さ(安全性)であった。一般の家庭の食卓より低いかもしれない。客席の天井には4機の全熱交換器が見えており、500m3/hの能力と仮定すると4機で2000m3/hの換気を確保する。これを1人当たりに(ぼくが設定する)50m3/hで換算すると、40人定員を賄えることとなる。入店当時はこれにほど遠い客の入りだったため、計測の結果になったのだと思う。安心できるチェーンである。
原材料と人件費というF/L費の上昇で飲食店はいまや存亡の危機に立たされている。地元の老舗も台所(財政)は火の車かもしれない。安心して飲食のできる環境を調えても大した費用は掛らない。店舗環境を調えることはあらゆる面で利点があるので着手してほしいし、客である私たちも応援したいと思う。
なお、CO2センサーは複数使っていて、同じ環境で測定して誤差というか計測の傾向を把握している。手元にあるのでもっとも信頼できるのが
INKBIRD製。
内部のNDIRセンサーには旭化成のグループ企業で、スエーデンの空気やガスのセンシングで定評あるセンスエア社製が使われている。
https://senseair.jp/about/このセンサーは、高精度かつ低消費電力。これまでのCO2センサーは、AC駆動もしくは乾電池でもすぐに寿命が尽きてしまう欠点があった。AC駆動だと持ち運びできないし、乾電池仕様はバッテリーに依存しない合理性がある反面、計測の精度/測定間隔(1分ごととか、1日ごととか)を上げると途端に短寿命になってしまう。その点、このCO2センサーは、10分毎計測の設定で乾電池で4年持つ(ぼくは現場で測定することが多いので1分間隔としている)。NDIR(非接触赤外線)方式のセンサーならどれも同じではない。センサーの精度、感度、反応度の性能差はある。なお、製品本体は中国製で優れた部品をアッセンブルしているのだろう。温度、湿度は本体で常時表示のほか、アプリを使えば、ログの保存や気圧も把握できるなどスマート化も可能である。
さらに表示がKindle(電子書籍の表示端末)と同じように電子インクというのも画期的。電子インクと液晶との最大の違いは目が疲れないこと、炎天下でも見やすいこと、文字が光っていないので省電力であることである。次の写真は、野外で他の液晶表示のものと比べているが、圧倒的に本機が見やすい。意外なことに室内や暗い場所、斜めから見ても本機の表示がもっとも見やすい。電子インクのうえ、表示されるフォント(特にCO2濃度)の見やすさも特筆である。現時点での
CO2センサーの決定版といえる(Amazonでの評価数が少ないのは本質を見るヒトが少ないことを表している)。


コロナ下でCO2センサーを導入したもののいまは使っていない事業所があるとしたらもったいない。よどんだ空気に気付いて改善することは快適な職場環境の確保による離職の防止、生産性の向上にも貢献する。再活用をおすすめする。感染症はコロナだけではない(突然変異で強毒化のおそれあり)。新型インフルエンザ、風邪、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1 型)のヒト型変異の恐怖、未知の感染症のおそれ(地球温暖化が加速する)はむしろ増大する。
コロナは5類移行後の1年で3万人以上が死亡した(5類移行前よりも増えている点に注意。警戒を行ってはいけない。ぼくも昨年だけで知人を2人亡くしている)。コロナ下での教訓は、政府や行政の情報を鵜呑みにせず独自に情報を収集して判断すること。どんな組織にも政治力学があって事実が隠蔽されたり表に出てこないことがあること。根拠のない陰謀説には与せず、あくまで科学的な根拠や経済/環境/安全の合理性から論理的に判断することと自戒を込めて書いている。