心が軽やかにならないのは自分のことではないから。どこを見渡しても、政治の劣化、戦争、生態系の破壊…と心が安まることがない。だって身の回りのことは自分が生きている世界のことだから、別々に考えることはできないから。
だからといって、楽しみを持ってはいけない、ということではない。身近なところに(探しに行こうとすれば)小さな幸福は散りばめられている。それを集めて誰かが(自分も含めて)元気になれたらそれはそれで良いこと。
「おいしい」ってどういうことだろう?
世の中で行列ができる店は数え切れないぐらいあるけれど、そのなかにほんとうにおいしい店(もの)はあるだろうか?と疑問を拭えない。
ぼくは職業柄、そんな食べ物や店を見いだす機会がある。限られた量しかできないのは食品製造の宿命として、そこに無理がある場合はすぐにわかる。売れるからといって数日前から菓子を焼いたとしても、良質の材料を使っていることをアピールしていても、その使いこなしがどうなのか? 何より食品にとってもっとも大切な衛生管理や品質管理はどうなのか?
ぼくは以下の視点で見ている。どれも大切だが、規模や業種によって重み付けは異なる。
・食品を業務として提供するので菌数管理や芯温など火入れを含む高度な衛生管理(これらは風味とも密接な関係がある)
・原材料調達への取り組み。安定供給と持続的な活用法の工夫。生産者や消費者、地域社会にどのような影響があるかを考慮
・科学的な食材調理の知識(マギーキッチンサイエンスなどに代表される分子調理や原材料や風味の組み合わせの妙)
・地域の食文化を理解した上で独自の提案で新たな魅力を創出
・マーケティング(売るためのナラティブ=盛った価値)ではなく、それを届けた人たちの幸福を考えてつくられている。
これをすべて見通せないと食品の評価はできないと考えている。
シフォンケーキやマフィンを例にとっても、徳島で(というか全国的にも)上記の基準をすべて満たす事業所はおそらく存在しない。ほとんどの店はそれよりも見せ方(小道具の使い方、見栄えのする外観など)や売り方に力を入れている。
事実そのような店は売れている。確かに売れているが、そこにあるのは次々と消費される「盛った価値」である。そしてほとんどの人はそれで満足しており、何がどのように違うのかをわからないまま消費しているともいえる(ほんとうに良い店はFacebookやInstagramの「いいね」を集めようとしていない。SNSすらやっていないこともあり得る)。
ここで紹介する店は徳島では数少ない上記の基準を90%以上満たす店である。目には見えなくてもそこが大切というところは手を抜いていない(これが一般の人には見えない)。徳島の秋を閉じ込めた焼き菓子の世界に浸っていただけたらと企画したもの。














商品や店の説明はしないのはマーケティングの片棒を担ぎたくないから。実際に食べてみたい人は以下のヒントから自分で探して実際に足を運んで買い求めて確かめてください。
・徳島市内で毎週金曜日のみ営業している。
・旬の地元の素材を見繕ってつくるので次の週には同じ商品はないことが多い。
今回は焼き菓子だが、SNSさえやっていないのに、広大な食の世界を独自にきわめて、地道に積み重ねている製品や事業所、店がある。ほんとうに紹介したいのはそんなところだけれど、紹介することで迷惑がかかることを懸念する。それまでその店の本質を理解し長く応援している人たちが手に入れられなくなったり、行列による近所迷惑などが起こりえる)。
それでも伝えていかなければ悪貨に駆逐されてしまうことも起こりえるという矛盾を抱えて第三者として頼まれもしないのに発信している(お金をもらっても広告記事は書きません)。こんな世の中だから、ほんものに近づく努力をしている人たちに思いを馳せてみたいから。