ウクライナへの侵攻は終わることを知らず、その間にウクライナ市民を中心に死者が増えるばかり。さらに4百万人を越える人々が国外へ脱出しているという空前絶後の危機というのに、当事者以外の国にとっても他人事ではないにせよ、インターネットやメディアからの情報を見ているとある意味では劇場観戦をしているような錯覚に陥る。この違和感はどこから来るのか。
ロシア軍も相当の被害を受けているようだ。国民が納得する成果を訴求して停戦したいのは双方ともだろう。しかしいったん動き出した山は止められずギアアップしていくばかり。太平洋戦争で日本も経験したとおり。誰もが止めなければと思っていながらやめられないというジレンマを目の当たりにしているからだ。
そこでNATOの参戦でも経済制裁の徹底でもない、第3の道が残されているのではないかと考えてみた。その相手国はアメリカである。以下は架空の物語として書いてみた。
急きょバイデン大統領とプーチン大統領の会談がワルシャワで対面によって開催されることとなった。開催は米ロ双方ともつながりの深い複数の国々が音頭を取ったことがきっかけとなった。会談は通訳以外は両大統領のみで非公開で行われる。会場には国旗も食べ物もない。飲み物は双方が自分で持ちこんだ。
(以下にバイデン氏の発した言葉のみを掲載)
本日ここにいるのはウクライナ、ロシア双方を救いたい。この戦争の終結は誰にとっても望ましい結果をもたらすからだ。それのみが目的であなたを糾弾するつもりはない。ある意味ではあなたの相談相手としてやってきた。なぜならロシア国内であなたに意見や助言を行える人物はいない。あなたはそれほどの権威を得ている。しかしときにそれは現場の真実を知らされないという弊害も生み出す。まずは我が国の専門機関による戦況の分析をお伝えする。
現時点で貴国の得たものは、これこれ(略)。
貴国の失ったものは、戦場では兵器これこれ、死傷者これこれ、戦費これこれ…(略)
あなたに報告が上がっているかどうかは知らないが、これは我が国の専門機関で把握しているものだ。あなたが信頼する腹心の部下に真実のみを伝えよと命じて現場を探らせてみるといい。それほど違わない結果が得られるだろう。
ここにいくつかの動画がある。我が国の専門機関が分析して真実性が高いと判断しているものだ。ほとんどはマスコミにも公開していないものだ。まずはあなたに見てもらいたい。これが兄弟国ウクライナに対し貴国の軍隊がしているという事実を確認して欲しい。
以上がこれまでの客観的なできごとや数字の羅列だ。これをどう判断するかはあなたであって私ではない。しかしこの事態が続けばロシアも関係諸国も後戻り不可能な状況になり、世界は壊滅的な状況を迎える。私はそのことを防ぎたい。ウラディミール、あなたも同じだろう。あなたにとって名誉ある意思決定を考えてみよう。あなたはどうしたいのだ?
貴国が得たものと失ったものを比べてみれば圧倒的に失ったものが多い。なかでも国際的な信用の失墜が今後百年近く貴国を苦しめることになる。あなたはそれを望んでいるか? 不名誉な大統領として歴史に名を刻むことを。
まず私からいう。NATOは平和を守りたい。同盟国から貴国に侵攻することは貴国に攻め込まれぬ限り行わないことを約束する。もちろんウクライナはNATOに加盟しないし、西側のミサイルなども設置しない。あなたのいう非武装中立を果たすようゼレンスキー大統領を説得する。また、ロシアの大統領であるあなたがウクライナのために何ができるかを教えて欲しい。超大国としての誇りを見せて欲しい。
いくつかの難しい問題はあるが、その提案であればウクライナは協議に乗ってくるだろう。ただし戦勝国という概念は捨てなければならない。それはロシアのためだ。今後ロシアが世界中で信頼を回復することこそ国益に叶うこと。むしろ相手の国土に浸入してこれだけの破壊行為を行ったこと。
大統領はまだ疑心暗鬼のようだが、その一方で組織にも疑いの目を向けているように感じられる。やはりロシアはウクライナに償わなければならないのだ。そのことに対して世界中の国で反対する国家はひとつもないということだ。
ウクライナへの賠償金が国内で一部の政治勢力が納得しないというのであればかつての兄弟国でもあるウクライナに復興特別基金をロシアが提案するのはどうだろう。それは人道的にも叶うこと。基金にはアメリカも拠出しよう。そうすればあなたの対面は保たれる。ウクライナには復興のための特別なお金が必要だ。隣国の不安定化はあなたも望んでいないだろう。声に出せず戦争反対だった少なからずのロシア国民はこれらの提案を歓迎してくれる。あなたの支持率もさらに上がるだろう。
東部の地域では住民投票を行い自治権を得るかどうかを決めるというもの(独立やロシアへの帰属を求めるのは世界世論が許さないだろう)。それでもウクライナのロシア民族を守ったことであなたの成果となる。クリミアについて占拠する大義名分がなくなったと思うがどうか? その代わり交易の拠点としてロシアがウクライナ国内で自由に使える貿易港(物流拠点)とできるよう私からゼ大統領に提案するつもりだ。領土はウクライナのものだが、ロシアとウクライナの自由貿易特区のような存在として中東や旧東欧諸国からも人や物資が集まるようになれば両国の復興、繁栄にも一役買う。両国とも戦争で失った経済的損失は莫大なのだから。
私は組織の情報統制で孤立しているあなたを救いに来た、というのが冗談でなく本気であることがわかっただろう。実のところ現在の状況が続けばアメリカはますますその地位を固めて武器も大量に同盟国に売れるから悪くはない。しかしそれは狭い考え方だ。人やモノ、情報などあらゆるものが連鎖しているいまの社会では1国だけが利益を手に入れることは良くない。世界全体でプラスの成果を減らしマイナスの効果を増大させるので結局は誰にとっても不幸な状態となる。このことは私からあなたへもっとも伝えたかったことだ。
ウラディミール、今後はホットラインで話し合いを続けよう。アメリカにはバーボンという庶民的な蒸留酒があるしロシアにはウォッカがある。いつの日かネクタイを外してジーンズでグラス片手に話ができる日が来るといいと思っている。
貴国には貴国の流儀がある。私はあなたの政権終焉は望まない。あなたがロシア国内で再びリーダーとして国民から支持されることになればそれでいいし私はそれを望んでいる。今日の意見交換は有意義だった。また近々行えるとうれしい。
(この物語は架空の想定で、もしバイデン大統領とプーチン大統領の直接会談から事態が打開できるとしたらという会話劇です。バイデン氏の発言のみを記載しています。平和でいることがあたり前のように捉えて平和不感症となっている日本だけに、民主主義を本気で実践していくことが政治行政国民を問わず必要です)
posted by 平井 吉信 at 14:54|
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