夏の暑い日々も少しずつ秋の気配が感じられるこの頃、
そんな時節にとてもおいしい音楽を見つけた。
(梅干しの次はオレンジ)。
楽曲や演奏者の解説は以下のWebサイトをご覧いただくとして。
https://wmg.jp/attacca-quartet/discography/20725/https://www.npr.org/sections/deceptivecadence/2019/04/19/700361912/caroline-shaws-love-letter-to-the-string-quartetバレンシアオレンジはアメリカのスーパーマーケットでどこにでも売られているありふれた果実。
そのオレンジから受けた霊感を
冷涼かつ温もりのある陰翳、精緻な造形で描いた音楽(といっても伝わらない)。
弦楽四重奏曲はハイドンやベートーヴェンの古典から
近代ではバルトークやショスタコーヴィチの名作が知られる。
この音楽も古典の造形や構造は採り入れているが、
新たな価値(心象)を再現するのに成功している。
といっても作者のひとりよがりの実験音楽の印象はない。
音が空間に鳴り出すとわくわくする感じ。
(千利休の一期一会という言葉がこの音楽との出会いそのもの)
強いていえばラヴェルの弦楽四重奏曲を自由に解き放ち、時間と空間に拡散させながら
音楽そのものはあくまで人間に寄り添っている風情。
現代に活きる作曲家が自由に魂を羽ばたかせて
そこに漂う人肌の温もりとオレンジの酸味が飛び交う刹那が交錯し
弦楽がピッチカートや和声を織り交ぜて空間に積み重なっていく現象を
現実に受け容れて音空間に浸る歓びは何物にも代えがたい。
晩年のベートーヴェンがもっとも力を入れたのは弦楽四重奏曲で
彼がこの世を去るまで描かれている。
ときに一筆書きのように融通無碍で
馥郁とした音楽の香りが立ちのぼるが
それとともに作曲家の魂に触れる親密さ。
そしてどこか遠くへ連れ去られる。
(バルトークやショスタコーヴィチも同様だろう)
作曲者のキャロライン・ショウも純粋な音楽の表現として弦楽四重奏が最適と考えたという。
そして自らが呼びかけて結成したアタッカ四重奏団が彫りの深い演奏で応える。
(2003年、ジュリアード音楽院の学生により結成されたもの)
音楽とは形式や構造を持っていて、そこに和声、リズム、テンポがあり
楽器を出し入れしつつそれぞれの絵の具を足したり引いたりしつつ
空間に並ぶ音の粒子の千変万化諸行無常に浸るもの。
紙ジャケットのデザインは秀逸。二つ折りの最初の袋には作者からの楽曲に寄せるメッセージが書かれている。2枚目の袋にはオレンジ色のCD。

オレンジの持つ酸っぱさ、明るい存在感、親しみやすさ…。
オレンジを素材として自らの世界観を庭になぞらえて
幸福な音の編み物に仕上げた。心に清涼感をもたらす音楽の風鈴が夏の夜に凛と鳴る。
換気の行き届いたカフェで聴きたい音楽はこれかな(コロナ禍の贈り物として)。
真夏の夜に聴いているただいまが愛おしい。

Caroline Shaw: Orange / キャロライン・ショウ:オレンジ【輸入盤】視聴はYouTubeでできる(アタッカ四重奏団公式アカウント)
https://www.youtube.com/watch?time_continue=206&v=tQPY89YQmJQ&feature=emb_logohttps://www.youtube.com/watch?v=zgQnjRwsFNc&list=OLAK5uy_m3o5c-TkpHRhQN1T8d3AOmvGpWAeDMPlE&index=22020年グラミー賞(最優秀室内楽・小編成アンサンブル・パフォーマンス賞)受賞を記念してピクチャーアナログLPを限定発売! レコード盤がオレンジ色?
https://www.youtube.com/watch?v=64ozoqUKZ9c(↑キャロラインとアタッカ四重奏団の遊び心が伝わる場面)
追記
録音も最上級。
眼前でアタッカ四重奏団のメンバーが演奏しているよう。
技術者もよい仕事をしたね。
みかん食べたくなってきた。
posted by 平井 吉信 at 11:26|
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