神山町の梅の里、阿川地区。
集落の中心には二宮八幡神社がある。
小径を隔てて隣接する古民家に中国茶の喫茶(試飲)ができる場所がある。
地元で山茶(自生茶)を管理しながら白茶を生産されている方がいらっしゃるというので
お話を伺いに訪れた。
石田祐史さんは徳島市のご出身であるが事業の機会を求めて中国大陸に渡り
香港と深センで日本の茶道具を販売しながら中国茶の魅力にも触れてこられたという。
現地の政情不安もあって日本に戻るときに神山町を紹介され、阿川地区の古民家を見て移住された。
神山町内には生産者の高齢化で放置された山茶の自生地も少なくない。
石田さんは自ら茶葉を生産しつつ中国茶の製造に取り組まれようとしている。
中国では同じ茶葉から製法によって6種類がつくられ、色に例えて呼称される。
緑茶(無発酵)→白茶・黄茶→青茶(ウーロン茶など)→黒茶(プ−アル茶など)→紅茶(完全発酵)となる。
これらは非発酵、微発酵、前発酵、後発酵と発酵によっても分けることができる。
阿波晩茶は乳酸菌の作用による後発酵で中国では黒茶に分類されるもの。腸の健康に良い成分が豊富とされる。
医食同源の思想を持つ中国では茶は飲料であり薬でもある。
特に消化器系を利するといわれているため、冷たい茶は飲まない。
三国志の時代の燭の国(いまの四川省成都)では喫茶の文化があったと伝えられる。
(卑弥呼よりやや前の時代である。赤壁の戦いや諸葛亮孔明が卑弥呼より古いなんて)
中国は世界の茶のルーツとなっているが、
なかでも西南地方の原住民ではないかといわれている。
茶には鉄分やタンニン、カフェイン、ポリフェノールなどが含まれ
飲むことで神経を高ぶらせたり静めたりする作用が知られていたのではないか。
唐代の茶の研究家陸羽が著した「茶経」はその原点とされる。
石田さんが取り組む中国茶のなかで力を入れているのは白茶(微発酵)である。
白茶は揉まないことが特徴で茶葉はそのかたちを残している。
茶葉を自然に発酵させたあと天日乾燥されている。
今年できたばかりの白茶茶葉を分けていただいたので
さっそく飲んでみた。
抽出はガラス製の紅茶ポットで緑茶と比べてやや高めの湯温で抽出している。


茶とは風土の凝縮であり、それをつくる人の思いであり
湯によってそれらがじわじわと溶け出して風味をつくりだしている。
石田さんの白茶はダージリン紅茶で鼻に抜けるあの茶葉の生っぽい香りと
口に含めばやさしい味わいが感じられる。
(ほのかな甘み、というよりはさらに包み込む余韻のような甘み。これが白茶なのかと…)
阿川地区は神山町でも梅の里として知られ
由緒ある古民家や蜂須賀家の別荘などがあった場所でもある。
集落の中心には小学校の跡地と二宮八幡神社がある。
石田さんの杉香庵(さんこうあん)は二宮八幡神社に隣接する場所で
道から少し入った閑静な場所にある。
杉香庵は古民家を改修して喫茶(試飲)のできる店舗と製茶場がある。
その場所は山懐に溶け込むように山茶の自生地に囲まれてある。
軽自動車がやっと通れる路を上がっていくと見えてくる。

近づいていくと石田さんの世界観が現れる

門をくぐる頃にはすでにこの地の雰囲気に浸っている感じ

試飲と販売の場となっている場所。
石田さんが現地で目利きをしてきた中国茶を、
ご説明を受けながら試飲ができるかもしれない。

年代ものの黒茶をいただく。

場合によっては百年に達するものもあるという。
カビを取り除き最初の数煎は湯を捨てる。
十煎を越えてもなお風味が濃厚で
枯れていくにつれて強い風味の陰に隠れていたやさしい甘みが顔を出す。
机が濡れているのは専用の茶卓でここにこぼすため。
(年月の経過で茶渋で色が変わっていくのが味わい)

蜜柑の皮を干したものを漢方薬では陳皮という。
陳皮で茶を立てる人はいるが、蜜柑の中をくり抜いて茶葉を入れておくことで柑橘の香りが愉しめる。
これを小青柑(シャオチンガン)という。神山の柑橘を使ってつくられる。

山紫水明の印象をかたちにするのが逆流香。
通常の香は煙が上に上がっていくのに対し、下方に沈んでいく。
そのさまを滝や雲海に見立てることがある。
そのときに使う道具を香炉という。

これを見ながら茶をすすってみたらどんな気分だろう。
神山は杉の産地でもあるが
地元産の杉を粉砕して固めた逆流香(写真でどんぐりのようなかたちのもの)は石田さんの手作りによるもの。
杉の粉末を固めただけで薬品は使っておらず、香りを愛でながら地域資源の有効活用にもなっている。
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ここにいると四季折々の野鳥が声を立てる。
庭から風が入り込んで草の匂いを漂わせる。
目を閉じて茶をすする。
幸福の定義が身体に吸い込まれていく。

石田さんは日本の茶道具の骨董を集めておられる。
また、畳2枚ほどもある見事な山水画も拝見。
中国茶に関心のある方はご訪問されてみては?
杉香庵
神山町阿野地ノ平143-1(二宮八幡神社隣)
月曜定休
090-6487-3478
(石田さんは製茶などの作業をされていることがあるので行かれる際はお電話で石田さんのご都合をお確かめください)
神山町阿川の里については以前に訪問したブログをご覧ください。
→ 阿川梅の里 神山 梅がほころび桃源郷のきざし