徳島の平野部では2月下旬ぐらいからスミレが咲き始め、4月上旬に揃うようになる。標高数百メートルから1千メートル前後は4月の中旬ぐらいで咲きそろう。1200メートル〜1800メートルでは4月下旬から5月中旬ぐらいまでかな。
標高に応じて高い場所のスミレを見に行くことが春の風物詩となっている。スミレの名山といえば、その種類の多さで東京の高尾山が知られている。山麓まで電車で行くことができ、毎日登る強者もいるという(気候や地形だけでなく、登山者の多さがスミレの種類の多さにもつながっているのだろうね。登山者が登山靴などに付着した種を運ぶことがあるから)。
徳島のスミレの名山に出かけることにした。といってもヒトはほとんど見かけない。
散策路を登っていく。重力に抗う登山では、一歩ずつ確実に進める忍耐がある。どこかにたどり着いて視界が開けたとしても達成感はない。ただ、決まった動作の繰り返しを耐えているとき、自分の意思で時間を刻んでいるよう。
目線を足下左右に置いていく。これはスミレ探しのため。ときどきは、立ち止まって遠くの林間を凝視する(クマはいないけれど、動物より先にこちらが気づきたいので)。五感と肺活量と脚、背筋腹筋、体幹の運び。このあたりにあるのでは…と、ありそうなところでは先入観を持って見る(おそらく植物を探す人はみんなそうしている)。
すると、今年もそのあたりにあった。しばらくはこの日見つけたスミレの博物館ということで。
ナガバノタチツボスミレは、平野部から山岳まで居場所が広い。これは標準的な個体。
桃色のスミレは、沿海州など大陸がルーツの北方系だけど、徳島県西部でも数カ所に自生している。アケボノスミレという。
蕾のアケボノスミレ
アケボノスミレには花弁の色が濃い個体があって、クロバナアケボノスミレと呼ばれる。花が咲いても葉がない個体もあるけれど、葉を巻いて(すぼんで)出てくる個体が多い
おっと、これは悩ましい。こんな葉のスミレは単体ではないので、2種類の両親から生まれた交雑株。こんなときは周辺を探してみる。すると、両親と推察できる個体があった。シハイスミレとヒゴスミレ。つまり、シハイスミレ×ヒゴスミレ
ヒゴスミレは、サラダにして食べたくなるような繊細な葉を持つ(スミレの葉でないような)
近くにあったシハイスミレ。この個体も花弁の色むらがあって交雑個体の遺伝子を持っているのかも
アケボノスミレはさらに続く
葉に白っぽい筋が入っているものをフイリと呼ぶ。フイリシハイスミレ。左はシハイスミレの葉
ヒナスミレは花の時季が早いので、しおれかけている。ここの個体は花弁が淡く白に近い
これも交雑個体。ヒナスミレ×ヒゴスミレ
近くにあったヒゴスミレ
今度はオオタチツボスミレ。これも北国のスミレ。葉がやわらかく大きい
オオタチツボスミレ×ナガバノタチツボスミレ
葉にフイリのナガバノタチツボスミレ。マダラナガバノタチツボスミレとも言うらしいが、スミレの命名には規則性がなく疑問を感じる
華麗なアカネスミレ。毛に覆われているので、可憐というよりも毛深い。毛のない個体(オカスミレ)もあったが、マクロで接近しないと区別できない。
アカネスミレに似ているコスミレ。小さくないのになぜかコスミレ。花が密集して咲くとアレンジメントのように豪華だけど、花の盛期は過ぎている。あと半月早ければよかったけれど。同様に花期の早いアオイスミレも見当たらない。
スミレ(Viola mandshurica)のシロバナ型、シロガネスミレ。これもあまり見かけない。ホソバシロスミレとは花期と生息場所が違う。葉の形態ですぐにわかったけど。
名前がわかると親しみが湧くというか、名前と個体が結びつくことで理解するというのがヒトであるような。これらのスミレは、同じ山域で見ることができる。
一歩ずつの歩みはヒトの生き方として、出会うスミレたちも一期一会(来年はそこにいないかもしれない、もしかしたら見る人も)。草丈数センチの植物と生命の交歓をしているよう。
狂ってしまった世界で、悠久の世代交代を続けながら置かれた場所で存在し続けるスミレたち(生態系)が愛おしい。
タグ:スミレ
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